方言を活かしたAIチャットボットデザイン
ー富山弁と標準語の会話体験比較ー
概要
私はAIチャットボットについて研究を行っており、卒業研究では、富山弁を話すAIチャットボット「ヒカルン」を開発し、方言がユーザー体験に与える影響を検証しました。
開発に際しては、富山弁のデータセットを作成し、AIに学習させ、モデルを構築しました。また、LINE上で利用可能な環境を整え、ユーザーと実際に会話できるようデザインしました。
検証方法は、富山弁話者と標準語話者にそれぞれ富山弁と標準語のチャットボットと会話してもらい、言語表現の違いがユーザーの印象や会話体験にどのような影響を与えるかについて質問し、それぞれの観点から考察しました。
実験結果から、特に富山弁話者には地元の人との会話を彷彿とさせる効果があることが確認され、富山弁モデルは標準語モデルに比べて親しみやすさが向上することがわかりました。この結果から、地域性を取り入れたAI技術が新たなユーザー体験を創出できると感じました。
研究背景
AIアシスタントは様々な場面で活用されている
例)Siri, Googleアシスタント, Alexa
その多くが標準語で会話を行っている
非個人的+非人間的な受け答えをする場合がある
既存のチャットボットでは、キャラクター性を持たせることで克服
研究目的
本研究においては、方言を話すAIチャットボットの開発を通じて親近感や会話の温かみを目指す
→方言は富山弁を用いる
ユーザーに富山弁AIチャットボットと標準語AIチャットボットを比較してもらう
方言を用いることで、印象や会話体験にどう影響を与えるのか検証を行う
チャットボット開 発内容
富山弁データセット作成
json形式を用いて、一行ごとに富山弁の会話例を入力した。user欄には質問や会話の始まりの例 を入力し、assistant欄にはそれに対する富山弁の返答例を入力した。質問内容が理解できなく、誤って富山弁を学習することを防ぐために、質問例は標準語とし、返答例を富山弁とした。
下の図はデータセットの例である。このような会話例を約130パターン作成した。

システム構成図

モデル学習方法
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OpenAI社のGPTのAPIを取得
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PythonのOpenAIライブラリを使用し、データセットをアップロード
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データセットを基に学習
「ヒカルン」について
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LINE友達追加で会話可能
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学習させた富山弁を話す
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富山県の架空のゆるキャラとして人格設定
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富山のおすすめ観光地や食べ物を紹介する

インタビュー調査方法
検証協力者に富山弁AIチャットボットと標準語AIチャットボットの両方と会話してもらい、言語表現の違いがユーザーの印象や対話体験にどのような影響を与えるのかを検証
インタビュー結果を富山弁話者と標準語話者の観点から評価
検証協力者の分類
富山弁話者:富山弁を理解し、話すことができる人
標準語話者:方言を話さず、標準語のみを話す人


検証結果
富山弁に対する印象
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地元の方言を使用することでの人間味や地元への帰属感が「祖母」や「友人」といった親しみやすい人物像を想像し、ユーザーはチャットボットに親近感や温かみを感じる
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さらに、富山県出身の県外在住ユーザーにとって地元に帰ってきたような安心感をもたらす
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富山弁だとチャットボットの情報が間違ってても許せる


人間らしさ
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「私はます寿司が一番美味しいと思うちゃ」「私は特に、白エビとかホタルイカが好きやちゃ」といったように個性を持った会話が多くの人に印象を残していた
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全ての会話で富山弁を使っているため、システム感が減り、人間味を感じる


わかり合えた感
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「知らんちゃ」「もう既に行ったちゃ」と富山弁で話しかけた時に意味を理解し、適切に反応したことに言葉が通じることの喜びを感じていた
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「たしかに」と相づちがあると話を聞いてもらえている感が好印象


まとめ
富山弁話者
富山弁AIチャットボットはただ情報を提供するだけでなく、富山の誰かといった身近な親しみやすい人物を想像させる
この人間味や地元への帰属感で、ユーザーは親近感や温かみを感じる
標準語話者
富山弁で話すことに新鮮味や興味を感じる
口語で話すことやキャラクター性で人間味や温かみは感じる
方言を話すことに関して標準語AIチャットボットと比べると親近感や温かみで差はあまりなかった